アルケゴス問題:ハイリスク人物をカモにして信用取引崩壊

アルケゴスが最初に出てきたのは、3月29日(月)午後の日経新聞速報ニュース「野村の米子会社の損失、米アルケゴスの取引と関連 米報道」。2000億円もの損失は何が誰が原因か、ということで「アルケゴス」「タイガー・マネジメント出身のビル・ホワン氏」というキーワードが出てきた。その後、ブロックトレードによるアルケゴスのポジション解消で何銘柄かが大暴落を演じて市場がざわついている。ざわつきの理由は、ほかにもアルケゴスのような大規模で超ハイリスクトレードを行っているファンドがあるのではないか?という懸念。ポジション解消売りで自らのポジションが思わぬ暴落をされてはたまったものではない、という不安。

構図は信用取引に失敗して市場から強制的に撤退させられた

要は、個人投資家が信用取引で失敗して追証(マージンコール)を迫られたけど、追加資金がなくて金融機関から強制的にポジションを解除させられた、ということ。その規模が数百万円でなく数百億円だったので、市場は焦った。

それまでの簡単なフローは以下の通り。

①2020年あたりから低金利背景に8から10倍の信用取引(注1
↓(トータル・リターン・スワップ、CFD、劣後債取引などが報じられている

②金利上昇で相場軟調局面に変化し、ポジションが軟調になり、追証発生
↓(10倍の場合、10%株価がマイナスになるだけで追証発生になる)(注2

③追証どうするか、アルケゴスVS金融機関で会議も決裂
↓(相場に影響が出ないようどう処理するか、という会合があったという報道)(注3

④当事者のひとつゴールドマンサックス(GS)が先駆して。手じまい強行
↓その後モルガン・スタンレー証券やほかの金融機関が追従売り
↓(GSと同じポジションを持っていて退却が遅れた金融機関は当然損を出す)(注4

⑤手じまい強行のとばっちりを受けた複数銘柄が暴落。市場が動揺(注5

⑥関連した金融株と金融セクターが軟調
(ほかにもアルケゴスのようにトレードでへたこいた大型ファンドがいるのでは?と恐怖)

(注1):アルケゴスのホワン氏は、「タイガー・マネジメント出身で運用力もあった(注1-1)」個人信用力が高い人物だが、中国株でインサイダー取引を犯し有罪が確定した前科者でもあったので、高い倍率(運用力はピカイチなので任せても平気だろう)・高い手数料率(前科者のリスクでいちおう高い手数料率を設定しておこう)という、金融機関にとってはおいしい顧客だった。

(注1-1):ヘッジファンド業界のレジェンド・ジュリアン・ロバートソン氏が1980年代に設立したタイガー・マネジメントの運用担当者が、同氏の助言や資金支援などを受けて独立した会社を指す。こういった会社は確認できているだけで50社ある。ホワン氏はそのひとつタイガーアジアを設立していたが、インサイダー取引でファンドを解消し、その直後に自身の資産運用会社としての(ファミリーオフィスの)アルケゴス・キャピタルを設立した。今回の騒動はその運用に関するものである。

(注2):たとえば、資産1億円で10倍レバレッジだと10億円運用可能になるが、その10%が含み損になった時点で(マイナス1億円)、元々の試算1億円は0になってしまう。追証とは、このゼロになってしまった資産担保を追加で入れてね、でないと信用取引成立しないでしょ、というブローカー側からの「逃げられない要求」。一般的にはここまでやばくなる前に請求が出る。わたしは過去これを経験したw

(注3):この会合は談合の要素もあり、SECが調査を表明している(日経新聞など複数4/1)

(注4):これが野村証券と三菱UFJなど
・ゴールドマンサックス(ちょっと損した)
・JPモルガン(非公開)
・ウエルズファーゴ(損失なし)
・ドイツ銀行(不明)
・UBS(不明)
・野村証券 20億ドルやられた
・クレディスイス 30億ドルやられた
・三菱UFJ証券 2.7億ドルやられた
基本的に大量の持ち株処分は市場に影響が出ないよう、時間外取引で処理されるが、GSはザラバでそれを行ったので銘柄の暴落を招いてしまった。なぜザラバでやったのかは、GSが相当の危機感を持ったていたからだと私は思った。が、この真実は4/1現在報じられていない。一部では差し押さえをした、というが、追証発生の反対売買局面では当事者の持ち株は基本的に差し押さえられている。売買が終わって換金されたお金はアルケゴスの口座に振り込まれるはずなので、「破たん」と書いているブロガー複数の記述は間違っているかもしれない。が、TRS取引などの契約書、とくに損失発生時の処理フローがどうなっているかによっては、その振り込まれた残金も取り上げられているかもしれない。が、4/1現在アルケゴスが破たん(倒産、という意味で)した、という報道は確認できていない(トレードポジションが破たんした、という報道は多数ある)。

(注5):2日目の関連銘柄の暴落具合は以下の通り。

DISCA

FTCH

RKT

VIPS

TME(4/1終値まで)

BIDU(4/1終値まで)

VIAC(4/1終値まで)

 

大きな懸念:本当にアルケゴスだけか?

高レバレッジ取引を許しているファンドがほかにあるのか?あったらそこは無事なのか?ブロックトレードをザラバでやらかすようなことが起こるのか?こういった懸念が相場を軟調にさせたポイントでした。

GME戦では、GMEで大損をしたヘッジファンドが、損失補てんのために好調だったまともな株を売って損益をイーブンに戻す巻き戻しの動きが加速して、売りが売りを呼んだプチパニック相場が発生した。今回もそのような動きが市場全体にあるのか?ということです。

ファミリーオフィス・トータルリターンスワップなど、「隠れ蓑」要素にメスが入る?

CFDの隠れ持ち分・税優遇面

運用者はポジションが積みあがって大量所有になっても、情報開示義務がない。

「エクイティースワップとCFDは持ち高を開示しないで済むことに加え税制上の有利さから、ヘッジファンドの間で人気が高まってきた。銀行も実際に証券を売買する場合ほど多くの資本を割り当てることなく大きな利益が得られるこの取引を好む。」ブルームバーグ

税優遇面でどうの、ということも調べようと思ったが、私の取引に関係ないし、市場がこれでどう下落するのか、ということに直結しないので調査は打ち切った。

異常なレバレッジ倍率

個人の信用取引のレバレッジ相場は3倍。しかし今回の報道は8倍から10倍というものが多い。
この設定の裏付けとなる根拠がどう示されるのか、SEC調査がどこまで踏み込むのか。

*FX取引が過剰になった2010年前後やビットコインの顧客獲得でレバレッジ倍率が30倍とか異常に跳ね上がった2017~18年同様、個人信用をいかに論理的に確立するか、ということの再燃になる。が、これが市場にどう影響を及ぼすか、というと、「ハイリスクを取る一部バカの抑制」程度にすぎず、今回の一部銘柄の暴落程度で済むなら追加調査は不要、と考えて、これ以上調べることはしないことにした。

んーちょっと待てよ。タイガーマネジメントって。。

2000年までの間に勃興したヘッジファンド・タイガーマネジメントは、バリュー投資による収益を上げたファンドだった。その遺伝子は「タイガーカブス」と呼ばれる元運用担当者たちが運営するヘッジファンドに引き継がれている、とされていて、フアン氏のファミリーオフィスもそうだったはず。

となると、暴落した銘柄は、もしかしたらバリュー株だったのではないか?

さきほど暴落した銘柄リストを、SimplyWallStで理論株価と将来成長率を調べてみたところ、ビンゴだった。

 

4/1の終値が理論株価以下のものは7銘柄中6銘柄。直近最高値が理論株価以下だったものは3銘柄。フアン氏の銘柄の多くは、最近理論株価を達成していた。しかし売らなかったのはなぜか?

金融相場で上昇相場基調だった2020年は、株価は理論株価の2倍から3倍くらいまでつける傾向があった。人気化するとバリュエーション以上に買われる傾向は、テスラの暴騰をみれば明らか。ゆえに、フアン氏も売らずに2倍以上の成果を求めていったのではないか、と推察する。

この結果から私たち「そこらへんの投資家」は、2つの投資ヒントを得ることができると思った。

ひとつは、バリュー株の手じまいポイント。2020年のイケイケ相場では、理論株価の2倍以上を目標株価にしても合理的だったかもしれないが、調整が目立つ2021年はやや慎重になり、理論株価近辺でいったん手じまいをするのが賢明なのではないか。

もうひとつはバリュー株でもレバレッジ商品を組み合わせれば高い収益をあげられる、という教訓だ。日本株トレーダーがよくやる信用取引と現物取引の「2階建て方式」や、ロビンフッターが多用するオプション中心のポジション設定、銘柄CFDと現物の組み合わせなども考えられる。が、SBI・楽天・マネックスで米国株取引をしているほとんどの投資家は、これらの手法が用意されていないのでできない。となると、レバレッジ商品が大量投入されているバリュー株を探し、ホールドする見た目穏やかな現物ガチホ作戦を取るしかない。ある程度の話題があって割安な銘柄を探す、という手が考えられる。

暴落する銘柄への対策はどうしたらいいだろうか。オプションが買えない、空売りができない環境では、やはりハイバリュー銘柄をガチホするしかない。好決算あるいは高配当であれば、銘柄暴落が起こっても耐えられるか?かなりパッシブな戦術だが、米国株トレードの制約が多い多くの米国株投資家は、まじめにこの手法を考える機会が訪れていると思う。

 

<参考>
米SEC「事態監視」、株投げ売り、野村損失。
2021/03/30 日本経済新聞 夕刊
<米国>バイアコムなどメディア株が大幅安、米アルケゴスの投げ売り警戒
2021/03/30 00:40 日経速報ニュース
「虎の子」が示した死角(ウォール街ラウンドアップ)
2021/03/30 日本経済新聞
ジュリアン・ロバートソン氏、アルケゴスのフアン氏について語る
3/30(火) 11:39配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/a0466a79200a836535cf5a214cb968872190174a
ウェルズF、アルケゴス関連のエクスポージャー全て解消-損失出さず
Hannah Levitt
2021年3月31日 9:11 JST
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-03-31/QQSIA3T0AFB401
Wells Fargo Executes Four Block Trades Worth $2 Billion
https://finance.yahoo.com/news/wells-fargo-executes-four-block-192340627.html
Credit Suisse warns of ‘significant’ losses from exiting hedge fund positions
Mon, March 29, 2021, 2:22 PM·
https://finance.yahoo.com/news/credit-suisse-warns-significant-losses-052213422.html